森田季節「ベネズエラ・ビター・マイ・スウィート」

不動カリンが面白かったので遡って読んでいる森田季節デビュー作。全体のテイストや方向性の主張があまりラノベっぽくないベクトルにとんがっており、デビュー作だけに作者への先入観として固まるものがあったと思われる。
ボーイミーツガールもののようなガールミーツガールものであり。伝奇物のような都市伝説ものであり。イケニエビトとタマシイビトの話である。彼らのルールについては冒頭に簡潔に提示される。特殊なルールのある世界観である。
主人公の明海さんが幾分に自主性の強い女性であり、意志と行動力を持ち合わせており、自分と自分の大切な人の未来のためならば再起不能か場合によっては殺害もやむをえないと思っているッ!(ババーン)というジョリーン的タフネスさを秘めている。まっこと頼もしい女傑である。あと、けっこうレズっぽい。あらゆる点でメインストリームのラノベ読者から嫌われそうなキャラである。
なお、表紙の明海さんはかっこよくギターを構えているが、作中では全く演奏できないのでご安心を(っていうか詐欺では)。ギターはメインヒロインの実祈さん担当である。
森田季節らしいなんというか、あんこがたっぷり詰まったてんこ盛り作風で読後感は充実している。というかラストシーンがめちゃめちゃいいね! おそらくこのシーンを書きたくて話を作ったに違いない。しかし、明海と実祈さんの話はもうすこし掘り下げて欲しかった気がする。二人の関係は幾分に素晴らしいのでもっと見たかった。でもまあ、なんだか想像できるけど。
中盤で語られる陰湿なシーンなどやたら迫力があり、意外な引き出しあるのねと感心した。
作中には気配もないが、後の作品に見られる仏教神道的傾倒があとがきに少しだけ顔を出しており可笑しい。
あまり関係ないが、本の金帯に「せつなさはロック」とかでかでかと書かれていたようで、もうちょっとなんとかならんかったのかと思う。明海さんあんまロックしてないし‥‥、ブロック振り回すあたりはちょっとロックか。